2024年6月15日(土)
日本英語表現学会(JASEUS)第30回研究会
研究発表 発表要旨
「Villette — Charlotte Brontëの光の技法とその意図」
佐藤 麻耶子(早稲田大学)
本発表では、19世紀中葉のイギリスの社会風潮を背景に、Charlotte Brontëの最後の小説Villette(1853)のヒロインLucy Snoweの眼前にあらわれる光の現象に関する英語表現を取り上げながら、Lucyと共通するCharlotteの心境を明示し、Charlotteがこの小説の中で光の現象に託したものは何だったのか、社会的自立の視点から、考察したい。
まず、1850年代、Charlotteが周囲の環境やその繋がりに触発され、描いたVilletteは、その当時の批評家たちに社会のありのままを描いていると評価された。だが、その一方で、この小説には何か超自然的な力があるという書評もあったことをお話しする。
そこで、その力の核心に迫るため、超自然的に具現化された英語表現として、天涯孤独なLucyが世話人として働くMiss Marchmontの死後、途方に暮れながら、ふいに夜空を見上げると、目の前に広がる美しいオーロラのシーン、続いて精神面で支えてくれた青年医師John Graham Brettonとの間に心の距離を感じはじめたLucyの前で、突然、月光がより白く煌めくシーンにハイライトしていく。その結果、両シーンにおける類似点が日没後の自然光であることを明らかにし、このような光の現象とは、未来を不安に思い描くLucyに粘り強く生きる力、そして前進するパワーを与えたことを論ずる。
事実、数年前に兄弟姉妹を相次いで失って以来、寂しくて気が滅入っていたCharlotteは、心の支柱としていたブリュッセル留学時の恩師Constantin Georges Romain Héger氏と彼女の小説の出版を手掛けた実業家George Smith氏への思いとそれに伴う挫折感に苛まれながら、この小説を執筆し、Lucyの心境と同様に将来を悲観していた。
光には ‘Light is the brightness that lets you see things. Light comes from sources such as the sun, moon, lamps, and fire.’という定義があり、暗闇を照らし、物を見ることを可能にする力というニュアンスがある。それゆえに、Charlotteは現状を踏まえ、まるで闇に鎖されたようなつらい心境に至っていたとしても、この小説の中で、Lucyの前に光の現象を描写するにより、視界を広げ、そして明るい兆しを見ようとしていたと思われる。
従って、Charlotteは、Villetteによって、似たように思い悩む化身としてのLucyの先に、光の現象を描くことを通して、現実と上手に向き合いながら、希望を求めて生きていこうとしていたと言える。