2024年6月15日(土)
日本英語表現学会(JASEUS)第30回研究会
シンポジウム「言語研究における定量分析について」 発表要旨
「英語史研究と定量分析:Metadiscourse調査からの考察」
片見彰夫(青山学院大学)
本発表では、数値データを使用して問題を分析し、統計的手法を用いてデータのパターンや関係を明らかにする方法である定量分析を、大規模電子コーパスの活用と位置付ける。まず、英語史(英語)研究における有用な電子コーパスを紹介したい。この分野では、近年大規模コーパスを利用した多くの論文が発表されており、その中で利用される機会の多いと思われるコーパスについて説明する。次に、これらのコーパスを活用した先行研究の事例を引用する。そして、中英語から近代英語期へと移行する15世紀における否定文の変遷について、定量分析の観点から考察する。さらに中英語の散文コーパスとして Innsbruck Middle English Prose Corpus(a part of the Innsbruck Computer Archive of Machine-Readable English Texts )を用いて “that is to…” , “that is for to…”, “namely” という説明、解説の働きをもつMetadiscourseの用法を調べる。当該テーマの先行研究では、後期中英語から初期近代英語に至る変遷をHelsinki Corpusで調査したPäivi Pahta and Saara Nevanlinna (1983,1997)がある。当論文は示唆する点の多い論考であるが、中英語のみを調べ分析したものではない。さらにHelsinki Corpusは韻文も含んでいるという点にも考慮する必要がある。説明や解説のMetadiscourseがより効果的に用いられるのは散文であるためである。Helsinki Corpus の中英語期の約10倍の語数と、テキスト全文を含むInnsbruck Middle English Prose Corpusでの定量分析を通して生起数・頻度を示した後、Metadiscourseが、中英語散文において用いられる文脈を、文体やジャンルとの関連性から指摘したい。
「英語語彙表作成とその汎用性」
久井田直之(日本大学)
本発表は英語語彙表の作成に有用だと考えられる先行研究を紹介しながら、基になる考え方や作成のプロセスを整理したのち、発表者の作成した語彙表を紹介し、コーパスを用いた英語学習の目的に応じた語彙表作成の汎用性を示します。日本人の英語学習者にとって一番馴染みがあると思われる「単語帳を用いての英単語学習」を効率よく行うためには、単語帳に収録される英単語が重要になります。大学教育においては、学習者にとっての英語学習の目的が重要になり、その目的に合わせた語彙表を使用することが有用だと考えられます。本研究では田地野・水光 (2005)による英語教育の目的分類を基に、中條・吉森・長谷川・西垣・山ア(2007)と石川(2005)の語彙表作成のプロセスを精査し、発表者の勤務する経済学部の初めて経済学について学ぶ1年生向けに作成した英語経済学語彙表を示します。そして語彙表の汎用性として独自に開発した英語語彙指数(既習語彙指数, already learned vocabulary INDEX, ALV)の利用方法を紹介します。経済学のテキストの語彙表にALVを付与することで、英語が専門ではない教員も専門科目の内容面での語彙に関する配慮だけではなく、高校卒業時までにどのような語彙を学んできたのかを把握できるため、指導の幅が広がると考えられます。
「英語教育におけるエビデンスを示すためのデータ統計分析活用法」
石M博之(宮崎国際大学)
1.データ処理活用への捉え方
小学校・中学校・高等学校・大学等における英語教育研究の発展に伴い、統計的にデータを処理した分析結果による知見を指導に活かせる。それは、英語教師が教育実践の中で収集したデータを分析することによって、よりよい指導を構築して授業改善へと繫がることとなる。
しかし、中学校における定期テストの平均点がAクラス71点、Bクラス69点であったとすると、Aクラスの方がよい結果であると判定する場合があるだろう。また、以前より学習修得率が20%向上したので学習に効果があったと判定する場合もあるだろう。これらは統計的分析による結果で示されていない場合もある。また、統計でウソをつかないためにも統計的検証は必要であるだろう(『統計でウソをつく法』等の書籍あり)。
2.英語教育おける研究方法
英語教育の実証研究における研究プロセスの一つは、「研究テーマの決定」→「先行研究の検討」→「研究課題(ねらい)の提示(例えば、仮説検証型)」→「データ統計処理の検討」→「データの収集」→「データの処理と分析」→「(先行研究と関連しながらの)結論(まとめ)と今後の課題」→「成果の公表」という枠組みである。
そこで、このシンポジウムの発表では「データ統計処理の検討」から「データの処理と分析」の部分に特化して論じたい。その際に、(筆者が活用している)統計的検定を示す。例えば、相関係数、t検定、分散分析、χ2検定等を中心に提案する。また、具体的にソフトウェアを用いた活用事例も示す。研究方法を示すことによって、分析結果で真に相違があるかどうか(有意差があるかどうか)について示すことが可能となる。即ち、エビデンスを示すためのデータ統計分析する方法を提案したい。
3.参考文献等
データ処理・分析をするために必要とされる、基本的な研究方法に関する参考書籍、統計処理をするためのマニュアル書籍、及び(筆者が利用している)ソフトウェアも提示する。